DAC9018Dの制作

ES9018を使用した最高性能DAC 2013年

これまで自作マニアに基板キットを提供してきた藤原氏が、ついに現在世界最高性能を誇るICの「ES9018」を使用したDACを発表したのが、2011年12月。この時はシングル(と言っても8個もDACを内蔵していますが)でした。待望の「ES9018」だったので、すぐに飛びつきたいところでしたが、少しマッタ・・・。これまでも8パラ、16パラと市販品を超える“高性能”を目指してきた藤原氏ですから、より高性能な作品にチャレンジするだろうと、この時点では入手をパスしました。そうしたら案の定、ES9018をダブルにし、シフトパラDSD機能やジッタクリーナを内蔵する、より心を揺さぶる高性能なDACを半年後にリリースしたのです。であるならば当然、即ゲット(笑)。しかしながら、遅作の私は、まだこの時点で他のDAC製作やパワーアンプのチューニングに没頭していましたので、殆ど手をつけることが出来ませんでした。そして、12月に入ってパワーアンプのチューニングもある程度進んだのを機に、待望の「DAC9018 DUAL」に挑戦することになりました。

藤原さんの領布基板が到着

「ESS社のES9018Sを2個用いてモノラルモードとしたステレオ用DACです。SPDIF、PCM(I2S),DSD入力に加えシフトパラDSD機能と多彩な入力をもっています。さらのDAC素子のジッタリダクションを最大限に活かすために、BCKを逓倍し、さらにジッタクリーナにより高精度なシステムクロックを供給する機能もあり、きわめて安定した動作を確保しています。動作モードとしては液晶を用いるフルファンクションモードと外部スイッチだけで使用可能なシンプルファンクションモードがあり、用途に合わせてモードを選択することも可能です。自作ならではの高機能・高性能なDACに仕上がったとおもいます。」
入力は SPDIF(4ch)、PCM、DSD の3系統からなります。SPDIF は一旦 CS8416 で受けます。ただし CS8416 でデコードした信号で活用するのは BCK のみで、ES9018 には SPDIF 信号をそのまま受け渡します。これ は SPDIF でも BCK の逓倍のシステムクロックがつかえるようにするためです。 SPDIF、PCM,DSD のデータについてはデータセレクタの 74245 を介して ES9018S に送られます。 DSD 信号についてはシフトパラ信号をつくるため、シフトレジスタの 74164 を通してデータセレクタに送られます。BCK からシステムクロックを生成するために逓倍器のICS570とジッタクリーナのSI5317 を用いています。この逓倍クロックを使用するか、あるいは 100MHz の水晶をつかうかはソフトウエアで切り替えられるようになっています。

・・・・以上、藤原氏提供の解説書からコメント・・・・

ES9018について

ES9018を使用した市販DACには、評判の高いフィデリックス社の「CAPRICE」や超高級機の「アキュフェーズ DC901」が有名です。

特にDC901は100万円を超えるハイエンド機で、ES9018を片チャネル2個も使っています。どんな音がするのでしょうか。ハイエンド志向の私としては大いに気になるところです。それはともかく、ポテシャルの高い「藤原さんキット」ですから、市販品では不可能な希少部品の採用やケース等にも手間やコストを惜しみなく投入して、メーカ以上のハイエンドを目指してこのDACを仕上げてみたいと思います。

やっぱり、完成まで1年はかかるかな?・・・ハァ~(タメ息)。

ES9018はどんなICか?

ES9018の特徴は以下の通り

・マルチビットDACをデルタシグマ型で動作(ハイブリッド型)
・チップ内に8個のDAC機能を内蔵
・SP/DIFに加え、PCM(I2S)とDSDの入力(再生)が可能
・SPDIF入力が直接できDAIが不要(回路を簡略化)
・PCMでは32bit/500kHzサンプリングに対応
・Jitter Reduction 機能を内蔵
・マイコン制御が必須(I2C)

ブロックダイアグラムをみてひとつ特徴的なのが「Jitter Reduction」があること。また、デジタルPLLにより精密にクロックコントロールされる。
なお電源は3.3Vと1.2Vがアナログとデジタルで必要。

早速「DAC9018D基盤」の組み立て

DACチップおよびロジックIC等の主要部品は、藤原氏提供の添付品をそのまま使用。ただし、チップコンデンサはパナソニックのECPU(フィルムコンデンサ)へ変更し、チップ抵抗も進工業の精密抵抗に変更。これはいつもの事だが、叩けば音がなるようなセラミックコンデンサを使用するのには大きな抵抗がある。
その他パーツとすれば、一般的な金属皮膜抵抗はPRP(赤い色のもの)。特にPLLフィルタ用には、抵抗器は「Vishey VSR」、コンデンサには「Comell デップマイカ」をおごった。電解コンデンサについては殆どの方が採用する所謂OS-CO、サンヨー(当時)製のSEPCを使っている。

ところで、写真に金色に輝くネジや、接続端子。ここらが、私の拘りどころ。もちろん金メッキ品であるが、セイデン社の純銅ビスやDegi-keyで探し当てたターミナル。これによって組み立てと配線が楽になったが、最大の狙いは「見た目の美しさ」なのだ。・・・ここも自己満足の世界。

大事なのはアナログ(IV)回路

I/V変換には、ディスクリートに拘りたいので「POWER-IV」を採用し、パーツは私なりに厳選しています。主なパーツは以下の通りです。

  • FET→2SK246(BL)、NPN→NEC 2SC943(K)、PNP→NEC 2SA603(K)、パワーTR→2SC97A(K)/2SA571(K)とオールCANタイプ
  • 抵抗類→PRP金皮、Ohmite無誘導巻線、Mills無誘導巻線、Vishey VSR、Vishey AVR(ネーキッドタイプ)
  • コンデンサ→双信 SEコン、サンリング PPSD、ASC X335、ECPU 0.1μF、OS-CON

アナログ回路の初段に使用するJ-FETトランジスタは、かなり特性にバラツキがあるため、簡単な治具とテスターで測定し、Ids誤差の少ない物どうしでペアリングを行います。熱結合も重要で、私は2つのトランジスタを接着剤でくっつけるだけでなく、熱伝導フィルムでグルグル巻きにします。
中央の写真は、バイポーラ・トランジスタを専用の測定器で測っているところです。また、出力段のトランジスタは、やはり治具を作り測定します。

上の写真は、さらにオタク御用達の部品、双信SE コンデンサとビシェイ社のVAR(金属箔抵抗器)です。VARは当初14本1万円くらいのお値段だったそうです。(秋葉原・海神無線談)

左の写真は、①アナログ系の±15V電源。右は、同じくアナログ系の3.3Vと1.2Vの2階建て電源。
赤色の電解コンは、幻のコンデンサ「Black Gate NX 680μF/35V」です。ネットを探し回り、やっと手に入れた戦利品です。カナダのオーディオ・ショップなどで少量ストックされていました。それから、かなりオタクな部品として、一部で「神の石」と囁かれる、三菱2SA623/2SC1014を(お遊びで)使ってみました。効果の方は?
そのほかにデジタル系電源など定電圧電源が必要であり、全部で10枚の独立した電源基盤を作成しています。(スペース的には、トランスを含め電源系が全体の2/3を占めています。)

さて、そろそろケースの設計も進めないと…

まずは、パワーポイントで基盤配置、そして正面パネルや背面パネルを描いてイメージを作ります。私にとって楽しい時間なので結構丁寧に描きます。それから、CADを使って実際の図面を起こします。

今回アルミとステンレス材の削り出し、そしてヘアライン処理とアルマイト加工はそれぞれ専門業者に依頼しました。(とても綺麗な仕上がりです)

ケースに付ける操作用のスイッチと、液晶パネルです。どちらも金属部分はフライス盤を使って自作しています。このような小物部品に1~2週間も費やしているのですから、全部作るのに1年以上かかるのは当たり前でしょう。

左写真は、アナログ回路用トランス。Rコアですが、フェニックスに直接オーダーしています。金属板は、振動元となるトランスを固定する一種のインシュレーターとでも言いましょうか、鉛板とチタン板をケースとの間に挟み、マグネシウムのビスで止めるものです。

右写真の安井式ACフィルタも必ず実装しています。今回は、トランス3台なので、親亀、小亀、孫亀の3段式になりました。

こんな部品も拘りの品です。

WBT(ドイツ)製のRCAプラグ。(最高級の品で、輸入元エソテリック社のハイエンド機器でも採用していません)銀と金の合金で出来ている0.6m単線、オーグライン。(極めてオタク的な製品かも知れません。プラチナ入りもあります)フルテック製のオーディオ用ヒューズ。超低温加工のクライオ処理しているレア物です。

これで完成

ジャズ喫茶「カフェ・コロポックル」のメインのDACとして活躍しています。

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